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福岡高等裁判所 昭和45年(う)344号 判決 1974年5月25日

主文

原判決を破棄する。

被告人中江昌夫、同馬場義治を各懲役八月に、被告人永井健一を懲役四月に処する。

ただし、被告人三名に対し、本裁判確定の日より各二年間右刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、検察官提出の佐賀地方検察庁検察官検事伊津野政弘名義の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、弁護人谷川宮太郎、同斉藤鳩彦連名の答弁書に記載されたとおりであるから、いずれもここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

第一節被告人中江、同馬場に対する威力業務妨害被告事件関係

所論は、要するに、原判決は、被告人中江、同馬場に対する本件威力業務妨害の公訴事実に対し、右被告人両名が動労組合員数百名と共に急行列車「玄海」号前方軌条の枕木の付近(いわゆる車両接触限界内)に線路に沿つてスクラムを組んで立ちふさがり、同列車の発進を妨害した事実をほぼ認めたうえ、右被告人両名の右所為は、刑法二三四条の構成要件に該当することは明らかであると判示しながら、争議行為の本質は、単なる労務供給義務の不履行ではなく、勤労者が使用者の正常な業務を阻害することに求められるべきであり、勤労者の争議行為に対する刑事制裁は、当該事案に即して、争議発生の経過、争議行為の目的、態様、影響など、諸般の事情を綜合的に考察し、労働組合活動に当然包含される行為のごときは、正当な争議行為として処罰の対象とならないと解すべきであり、また、同盟罷業の実効性を確保するため代替労務者の就労を阻止するなどの補助的手段としてのピケツテイングは、平和的説得に限らず、ある程度の実力行使に出ることも場合によつては許されると解する旨の法的見解を示したうえ、本件において、労組法一条二項の適用との関係で、特に考慮すべき諸事情が存在すると認定し、右被告人両名の本件所為は、憲法の争議権保障の趣旨に照らして、労働組合活動に当然包含される行為にあたると解すべきであつて、刑法二三四条所定の威力業務妨害罪の刑事罰をもつてのぞむ違法性を欠くといわざるを得ないとして、無罪を言い渡した。しかし、原判決の右判断は、証拠の価値判断、取捨選択を誤つて事実を誤認し、かつ、刑法二三四条、労働組合法一条二項、刑法三五条の解釈適用を誤つたものであつて、これらがいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない、というに帰する。

そこで按ずるに、最高裁判所昭和四三年(あ)第八三七号、同四八年四月二五日大法廷判決は、「勤労者の組織的集団行動としての争議行為に際して行われた犯罪構成要件該当行為について、刑法上の違法性阻却事由の有無を判断するに当つては、その行為が争議行為に際して行われたものであるという事実をも含めて、当該行為の具体的状況その他諸般の事情を考慮に入れ、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かを判断しなければならない。」と述べている。従つて、威力業務妨害罪の構成要件に該当する右被告人両名の本件ピケ行為の正当性の判断は、基本となる争議行為(本件では、午後七時を基準とする二時間の勤務時間内の職場集会)そのものの違法性の判断とは別個の問題であつて、基本となる争議行為が可罰的違法性を欠くものであるからといつて、これに付随して行われた本件ピケ行為が直ちにその違法性を阻却されるということはできない。本件ピケ行為の違法性の判断は、その行為の具体的状況、その他諸般の事情を考察して、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否か、すなわち、ピケツテイングとして相当性の範囲内にあるか否かが検討されなければならないのである。

ところで、原判決は、ピケツテイングの許容される限界について、「争議行為の本質は、単なる労務提供義務の不履行ではなく、勤労者が使用者の正常な業務を阻害することに求められるべきであつて、それが権利として許容されるところに、生存権的基本権としての争議権が保障されることの独自の意義があると解する。しかし、争議権も絶対的なものではないから、制限を受けることはやむを得ないが、その制限は合理性の認められる必要最少限度のものでなければならず、特に勤労者の争議行為に対し刑事制裁を科することは、必要やむを得ない場合に限られるべきである。この立場に立つて、当該事案に即して、争議行為発生の経過、争議行為の目的、態様、影響など諸般の事情を綜合的に考察し、憲法の争議権保障の趣旨に照らして労働組合活動に当然に包含される行為のごときは、正当な争議行為として処罰の対象とならないと解すべきである。」「争議行為は、労働者が集団的に就業を拒否し使用者の業務の正常な運営を阻害することにより、使用者との労働条件その他の交渉において実質的な対等を確保しようとする同盟罷業をその典型とするが、これに対して使用者がその効果を減殺するため代替労務者を就労させ、操業を継続しようとする場合にはこれに対抗し同盟罷業の実効性を確保するなどの補助手段としてピケツテイングが行われる。ピケツテイングは、このように使用者の操業継続に対する労働者の対抗手段であるから、当然にその態様は多様であり、流動的であつて、いわゆる平和的説得もその一つの態様であるが、それに限らず、ある程度の実力行使に出ることも場合によつては許容されると解する。」と判示している。

しかし、公共企業体等労働関係法(以下公労法という。)一七条一項は、公共企業体である国鉄の職員および組合が争議行為を行うことを禁止し、職員、組合の組合員、役員は、この禁止された行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおつてはならないと規定し、同法一八条は、右規定に違反した職員は、解雇されると規定しているのであるから、本件の国鉄動力車労働組合(以下、動労という。)もその組合員も争議行為を行つてはならない議務を負つていることはいうまでもない。そして、右一七条一項の規定が憲法二八条に違反するものでないことは、既に最高裁判所昭和三九年(あ)第二九六号、同四一年一〇月二六日大法廷判決(刑集二〇巻八号九〇一頁)、昭和四一年(あ)第二五七九号、同四五年九月一六日大法廷判決(刑集二四巻一〇号一三四五頁)の判示するところである。それ故、組合としては、組合員に対して、公労法上違法とされ、しかも解雇等という民事責任を負わされるような同盟罷業に参加を強制することはできない筋合であつて、組合がたとえ同盟罷業を決議しても、それは公労法上違法であり、民間企業の組合の場合のように法的拘束力をもつものではなく、組合員としては組合の決議、指令にかかかわらず同盟罷業に参加することなく就業する自由を有するのであつて、これに参加を促がす勧誘説得を受忍すべき義務はないのである。従つて、組合の決議や本部指令に従わないで就業しようとする組合員に対し、同盟罷業に参加するよう平和的に勧誘し又は説得することは、公労法上の評価はとも角刑事法上の観点からは、ピケツテイングとして相当な範囲内のものということができるが、その程度を越え実力又はこれに準ずる方法で説得拒否の自由を与えず組合員の就業を阻止することは、他にこれを相当ならしめる特段の事由の存在しない限り、相当な限度を越えるものとして許されないといわなければならない。そしてピケツテイングが右の相当な程度を越えた場合においては、既に労働組合法一条二項にいわゆる「正当なもの」ということはできず、その行為が刑法二三四条の構成要件に該当する限り、違法性を阻却せず可罰的違法性を有するといわなければならない。

してみれば、原判決が同盟罷業の実効性確保を理由として、右の特段の事由の有無にかかわらず、一般的に実力の行使によるピケツテイングを是認し、また、原判示杉本機関士が動労組合員であるから本件職場集会に参加すべき義務があつたと判示したのは、動労のように公労法の適用を受ける公共企業体の組合に関する限り正当ではなく、原判決は、既にこの点において、公労法ならびに労働組合法一条二項の解釈適用を誤つたものといわなければならない。

そこで、以上の見解を前提として本件ピケ行為の正当性について検討を加える。

まず、本件ピケ行為の背景をなす基本たる争議行為の違法性の点についてみると、本件職場集会は、昭和三八年一二月五日付本部指令一八号(記録七冊、三一七八丁)に基づき、午後七時を基準とする勤務時間内二時間の職場集会であつて、全国七箇所の拠点において一斉に行うというのであり、かかる職場集会への参加は、組合の要求達成の一手段として組合員が勤務時間中に一斉に職場を離脱しその間集団的に労務の提供を停止するのであるから、まさしく同盟罷業の一種であることは疑問の余地がなく、また、その同盟罷業の時間は二時間という比較的短いものであるとはいえ、国鉄の輸送業務が今日の国民生活に必要欠くべからざるものであつて、公共性が極めて強く、その僅かの遅延でも取り返えしのつかぬ損失を与える場合があり、その業務の停廃は国民生活に重大な障害をもたらすおそれがあること、しかもそれが国鉄の主要幹線の七拠点において一斉に行われることを考えると、右の二時間の同盟罷業は、明らかに公労法一七条一項の禁止する争議行為に当たり、公労法上違法なものであるといわざるを得ない。従つて、右の争議行為に際して、これを実効あらしめるために行われるピケツテイングは、他に特段の事由の存在しない限り、平和的な勧誘、説得の程度を超えて実力又はこれに準ずる方法を用いて組合員などの就業を阻止することは許されない、といわねばならない。

この点に関し、原判決は、労働組合法一条二項の適用との関係で、特に考慮すべき事情の一として、「本件職場集会は、国鉄当局に対する安全輸送対策の確立及び検修合理化計画撤回要求を中心とする、動労組合員の労働条件改善などを目的とした動労の全国的争議の一環として行なわれたのであり、もとよりその目的において違法なものということはできないのみならず、本件争議に至つた経過においても、動労側に信義則違反などとして非難すべき状況があつたことをうかがわせるような証拠はない。かえつて、国鉄当局において前記(第二、一、2)のように、「国鉄近代化等に伴う事前協議に関する協定」の趣旨に反し、動労との意見の一致をみないうちに、屋久、田端、糸崎等で、車検答申案を具体化するなど誠実さに欠け、動労を本件争議のような形での実力行使にいわば追い込んでしまつたとの批判を受けても止むを得ないと思われる事情が存する。」と判示している。

しかしながら、仮りに、原判決がいうように、国鉄当局に不誠実な背信的行為があつたとしても、それは、基本たる争議行為の違法性を軽減する事由とはなり得ても、それに付随して行われたピケッティングの違法性が同様に軽減されると即断することは誤りであつて、その態様の如何によつては刑事法上可罰的違法であることは十分考えられるのであるから、本件においても、ピケッティングの違法性の程度如何は、それ自体として、また別個に諸般の事情を考慮して判定されねばならないのである。それ故、原判決の右判示は、基本たる争議行為の違法性と本件ピケ行為の違法性とを混同した誤りがあるといわねばならない。

のみならず、原判決が右のように国鉄当局側に不誠実な背信的行為があつたと認定したのは、専ら弁護側証人である原審証人福本増太郎の証言および被告人中江、同馬場の原審各供述によるものであり、かかる一方的な証拠のみによつて右のように認定したのは早計であるといわねばならない。却つて当審事実取調の結果によれば、必ずしもその様に即断できないのである。すなわち、原判示の昭和三六年三月一五日付「国鉄近代化等に伴う事前協議に関する協定」(当審で検察官提出)にいう「国鉄近代化等を行う場合は、甲(日本国有鉄道)は、可及的すみやかに計画中のものを含めてその内容を提示し、乙(国鉄動力車労働組合)と事前に協議する。この協議は、相互の了解をはかることを目的とする。」「近代化等に伴い労働条件に変更がある場合は、甲は計画中のものを含めてその概要を提示し、事前に団体交渉を行い、双方意見の一致を期するものとする。」旨の条項の解釈については、労使双方の見解が対立しているのであつて、組合側は、「国鉄の近代化等や労働条件の変更は、当局と組合の相互の了解ないし意見の一致がなければ実施しないとの趣旨である」と主張し、当局側は、「近代化等の実施や推進に当つていたずらな紛争を回避して円滑に進みたいので、公労法にいう管理運営事項についても、計画中のものを含めて事前に協議し、組合の意思は尊重するが、意見の調整が不可能であれば、当然一方的実施もあり得る。労働条件についても、意見の一致を見るのが望ましいが、しかし全てについて一致しなければ実施できないというのではなく、最終的に調整できなければ、一方的実施もあり得るが、努めて意見の一致を期したい。」との趣旨であると主張していたこと、国鉄当局は、原判示車両検修委員会(以下車検委という。)の答申に基づき、昭和三八年六月に動力車基地の整理統合についての当局の方針を動労に提示し、田端、尾久両機関区の整理統合についても、同年一〇月から実施の方針を提示して、動労と事前協議を重ねていたのであるが、動労側では、頭から全面的に車検委の方針自体の撤回、基地の整理統合の廃止、車両検査修繕方式は現行通りとすることを主張して譲らず、右協議中に、動労は、国鉄当局が前記事前協議協定に違反して一方的に基地の整理統合を行うものであるとし、自己の要求の貫徹を期して本件争議行為に突入した形跡さえ認められること(以上は、当審証人甲斐邦朗、同武藤格に対する各尋問調書の各供述記載と当審証人原田澄教(第八回、第九回)の供述記載により認定する。)に徴すれば、原判決が、国鉄当局に右協定の趣旨に反し不誠実な背信的行為があつたと非難したのは、正当とはいえない。

そこで、さらに進んで本件ピケ行為の態様について検討する。

原判決が、「本件争議行為にいたる経緯」「本件争議行為の内容」において掲げる各証拠および当審事実取調の結果を合わせ考えると、次の事実が認められる。

(1)  動労は、昭和三八年六月第一四回定期大会において、国鉄当局に対し、安全輸送対策の確立及び車両検査修繕の合理化計画の修正・阻止を求めるための斗争体制の確立に努力することを確認し、次いで同年一〇月第四〇回中央委員会において決定された斗争方針に従つて、国鉄当局に申入れを行い団体交渉を行つてきたが、妥結の見通しがたたないまま、同年一一月二六日全国組織部長会議を開き、斗争目標を、(イ)安全輸送の根本的な対策の確立等、(ロ)車検委の方針の撤回、動力車基地廃止反対と組合要求の協定化、(ハ)週四二時間の時短実施、(ニ)年末手当昇給新賃金の獲得、(ホ)給与並びに労働条件諸懸案事項の解決、とすることを確認すると共に、同年一二月一三日前後及び二〇日前後に二時間の勤務時間内職場集会を実施することを決定し、次いで同年一二月三日中央執行委員会を開き、同月一三日午後七時を基準とする二時間の職場集会を実施すること、参加対象者は、当日指定箇所の実施時間帯に出勤し又は勤務中の動力車乗務員及び非乗務員とすること、指定個所は、函館、盛岡、屋久、田端、稲沢第二、糸崎、鳥栖の各駅とすること、実施方法の細部については、動労中央本部から派遣する中央執行委員が具体的に現地で指示することとする、等を決定し、同月五日付でその旨の本部指令一八号を発すると共に、同月一一日から同月一三日にわたり国鉄当局との間で団体交渉を行つたが、一三日夕到交渉は一時決裂した。

被告人中江は、当時動労の中央執行委員で動労本部から鳥栖駅の斗争責任者として派遣され、現地到着後、同月一二日午後四時四〇分ころ鳥栖機関区長に対し、翌一三日午後七時から二時間職場集会を実施する旨通告した。

(2)  一方国鉄門司鉄道管理局(以下門鉄局という。)は、動労が同月一三日鳥栖駅で二時間の勤務時間内職場集会を実施する旨の情報に接し、その対策を検討した結果、管理局名をもつて同月一〇日門司地方本部執行委員長に対し、右集会は、違法であるから、直ちに計画を中止するよう申入れ(昭和四五年当庁押第五〇号の符の四)ると共に、機関車乗務員が勤務につかない場合に備え、管内から二六名の指導機関士を集め、これを業務命令で代替乗務員として鳥栖駅に出張させること、鳥栖駅に現地対策本部を設置して本部長に門鉄局運輸部長曾根茂をあてること、動労組合のピケによる列車の運行妨害その他正常な運行が阻害される不測の事態に対処するため、鳥栖公安室長中村主計を指揮者とする鉄道公安職員合計約二〇〇名を動員し、警備に当らせること等を決定した。

現地対策本部長の曾根は、一三日の当日現地に赴き、事前対策を協議し、午後六時鉄道公安職員約二〇〇名を警備のため鳥栖駅構内数ケ所に配置させたが、その頃には、後記のように、動労組合員約七〇〇名が同駅機関区事務所前広場に集合している旨の情報に接し、数においては約二〇〇名の公安職員では到底及ばないので、曾根本部長において、佐賀県警察本部に警察官の出動を要請した。

(3)  午後五時四〇分ころ鳥栖駅構内機関区事務所前広場において、動労門司地方本部をはじめ動労西部地方評議会傘下の態本、大分、鹿児島、広島各地方本部から集まつた合計約七二〇名の動労組合員らによるいわゆる決起集会が開かれた。被告人中江が右組合員らに対し当局との交渉経過を報告して演説し、動労西部地方評議会議長である被告人馬場が、今後の行動の指示を与え、次いで右組合員らは五つの行動隊に編成され、それぞれ責任者の指揮によつて午後六時二〇分配置についた。

その配置については、原判決は故意に認定を避けているが、その配置についた場所と人数は、原審証人萩原幸男の証言(記録二冊六六一丁以下)によれば、次のとおりである。

第一行動隊 約一二〇名 東出区線

第二行動隊 約二〇〇名 機留線

行動隊責任者は、動労門司支部執行委員長新井勝美である。

第三行動隊 約二〇〇名 第一ホーム

第四行動隊 約一〇〇名 第二ホーム

行動隊責任者は、被告人馬場である。

第五行動隊 約一〇〇名 第三ホーム

そしてピケ隊員の服装は、大部分がアノラックを着てタオルやマスクで覆面していた。

(4)  長崎本線の上り列車は、蒸気機関車を牽引車として進行してくるが、鳥栖駅において電気機関車と取り替えられて発車する列車が多く、その時には蒸気機関車(以下、着機という。)の客車からのとりはずしと、電気機関車(以下、発機という。)の客車への連結作業が行われることになつていた。後述の「平戸」号、「玄海」号も同様である。

(5)  新井勝美が指揮する第二行動隊約二〇〇名は、同日午後七時二二分着、午後三〇分発の上り急行、第二〇六列車「玄海」(長崎発京都行き)の発機が留置されている同駅機留線に至つて数列となり、その最前列が右発機の進路前方軌条の両外側枕木付近(いわゆる車両接触限界内)に、スクラムを組んで向い合つて立ち並び、全員が労働歌を唱和したりして気勢をあげた。

曾根対策本部長は、前述のように多数の動労組合員が駅構内に立入つたこと、午後七時から九時までに勤務すべき機関車乗務員が動労側によつて市内某所の旅館に軟禁されていること、および前記「玄海」号を運転すべき機関車乗務員が当日出動していない旨の報告を受けるや、前述二六名の代替乗務員の一人である杉本幸広機関士(門司機関区所属の指導機関士であるが、動労組合員である。)に対し、右発機を運転するよう命令し、自己が先頭に立つて、同機関士が動労組合員らによつて連れ去られないように、数十名の鉄道公安職員に擁護させながら同機関士を誘導し、「玄海」号発機に乗車させた。

右乗車は、スムーズに行われ、トラブルはなかつた。右公安職員らは、そのまま右発機周辺の警備に当つた。被告人中江と右新井らは、曾根に対し、乗務したのは正規の乗務員であるか否かを問い、また、安全運転確保のため通常出区に際し当務機関士が行う出区点検を杉本機関士に行わせること、警察官を労働争議に介入させるな、もし介入させると覚悟がある等と申し入れた。そして、第一ホームからかけつけた第三行動隊の一部約一〇〇名も、第二行動隊に加わり、合計約三〇〇名が、前記のように、「玄海」号発機進路前方軌条の両外側枕木付近に向い合つてスクラムを組み気勢を上げた。これに対し、当局側は、曾根や同駅首席助役らが、再三にわたつて組合員らに対し退去要求を行ない、もし応じなければ実力で排除する旨通告し、午後六時五〇分ころ首席助役が被告人中江に対し、口頭で、さらに午後七時ころには文書で申入れたが、被告人中江はこれを受取らないし、組合員らは全くこれに応じなかつた。

(6)  右状態が継続している中に、午後七時二〇分ころ、定刻より一〇分遅れて上り急行第二一〇旅客列車「平戸」号が第一ホームの上り一番線に到着した。すると、第二ホームにいた被告人馬場を指揮者とする第四行動隊約一〇〇名は、ホームから線路に降り線路を横切つて、「平戸」号着機の進路前方や第一ホームの着機東側面、第一ホームと反対側の着機西側面に移動した。それと共に、「玄海」号発機の機留線にいた労組員の一部が、「平戸」号着機の進路前方に移動した。そして、「平戸」号着機の西側面には労組員二、三〇名位が着機に極く接近して着機の方を向いて数列に立ち並び、第一ホーム上の着機東側面の組合員らとともに、ワッショイ、ワッショイのかけ声をあげたり、労働歌を唱和し、右着機進路前方に移動した組合員約二〇〇名位は、二重、三重となり、その最前列が軌条両外側枕木付近に向い合つてスクラムを組み、全員で気勢をあげた。

右着機は、客車から切り離され、発機を連結する作業が直ちに行われ、到着後六分間内に作業終了の予定のところ、右着機の解放が手間どつているのを、機留線の「玄海」号発機付近で見ていた曾根対策本部長は、右着機周辺のピケの組合員らが解放作業を妨害しているためだと判断し、鳥栖鉄道公安室長中村主計に対し、右組合員らを実力によつて排除するよう命じた。中村公安室長は、鉄道公安職員約四〇名を引率して右着機西側面に至り、ピケ隊員から四、五米手前付近に位置し、このままではピケ隊員が車両の接触限界内にいるので着機の発進は危険で不可能であつたから、携帯拡声機でピケの組合員らに対し、鉄道地外に退去するよう勧告し、これに応じないときは実力で排除する旨警告し、これを三回位くり返した。長野副公安室長も携帯拡声機で同様に警告を行つた。しかしピケの組合員らは、これに応じなかつたので、中村公安室長は、あとから加つた者も含め合計百数十名の鉄道公安職員に対し、午後七時二八分ころ実力による排除を命じた。そのため、鉄道公安職員は着機の後方炭水車付近から着機の進路方向へ、実力排除を開始した。その実力排除というのは、着機西側面に着機に接近して立ち並ぶピケ隊を着機より離し、また、着機の前方に線路内を向いて軌条両外側の枕木付近にスクラムを組んでいたピケ隊員に対しては、線路内側から、着機が安全に通行できる車両接触限界外にまで、軌条から約一米位両手などで押し下げ、さらに組合員らが右限界内に近づかないよう線路に沿つて並んだ(いわゆる逆ピケ)。右排除には応援に出動していた警察官もその後から加わつた。(この排除に際して、後記第二節の被告人永井に関する事件が発生した。)

「平戸」号着機を運転してきた丸田昭夫機関士(動労組合員)は、鳥栖駅到着直後、運転室に乗り込んできた被告人馬場から、「斗争に協力して着機から降りてほしい、もし下車できないなら、しばらく着機を動かさないでほしい」旨要請され、一時はこれに従う気持になつて、逆転器を中央に反転するなど長時間停止するための操作を行つたりなどしたが、その後運転室に乗り込んできた助役から発車を何回も指示されたので、考えを改め、前記のように、ピケ隊員が鉄道公安職員らによつて排除されるや、客車から切り離されていた着機を発進させて機関区に入区し、これに代つて、代替乗務員の運転する「平戸」号の発機が客車に連結され、「平戸」号は、午後七時三三分に、一三分増延し定刻より二三分遅れて発車した。

(7)  「平戸」号が発車すると、鉄道公安職員らによつて排除されたピケ隊員の一部が、「玄海」号発機の機留線に戻り、残留していたピケ隊員と再び合流し、約三〇〇名となつた。

曾根対策本部長は、定刻午後七時二二分着の上り急行列車「玄海」号が、定刻より遅れてはいるが、その到着の時間が切迫し、「玄海」号発機を機留線から引上げる必要があるのに、ピケ隊員が前記のような状況で、しかも当局側の再三の退去要求、実力排除の警告にも拘らず退去しないため、午後七時四〇分ころ、鉄道公安職員に対しこれが実力排除を命じた。鉄道公安職員は、前記(6)と同様に、軌条両外側の枕木付近にスクラムを組んで立ち並ぶピケ隊員に対し、線路内側から、発機が安全に通行できる車両接触限界外にまで押し下げ、さらに、ピケ隊員が右限界内に近づかないように線路に沿うて逆ピケを張つた。この排除には、警察官も加わつた。

かくてようやく、杉本機関士は、「玄海」号発機を運転し機留線から引上げることができた。

(8)  「玄海」号は、「平戸」号の増延のため定刻より約三〇分遅れて、午後七時五二分ころ、第一ホームの上り一番線に到着した。

すると、被告人中江らは、「玄海」号着機の運転室に乗り込み、長尾機関士外二名の機関助士がいずれも動労組合員であることを確かめたうえ、直ちに下車して職場集会に参加するよう説得したところ、長尾機関士ら三名はこれに応じ、直ちに着機より第一ホームに降り、約四、五米歩いて同所にいた第三行動隊員の群れの中にしやがみこみ、第三行動隊員は、これを楕円形状に取り囲んで気勢をあげた。

曾根対策本部長は、急を聞いて第一ホームにかけつけ、中村公安室長に対し、ピケ隊を排除し長尾機関士らを取り戻すよう指示したので、中村公安室長は、ピケ隊員に「乗務員を出しなさい、出さないと実力行使をする」旨警告したが、これに応じないので、その指示により公安職員約六〇名が右ピケ隊員を博多駅寄りの双方に実力で分散させた。これにも後から警察官の一部が応援に加わつた。すると、ピケ隊が分散させられた後に長尾機関士と機関助士一名は、ポツンとホーム上に取り残されていた。公安職員は、これを発見し、右両名の両脇をかかえるようにして着機に乗せ、その乗降口付近や着機周辺の警備に当つた。間もなく、着機は客車から切り離され機関区に入り、これに代つて杉本機関士の運転する発機が午後八時一七、八分ころ客車に連結された。

(9)  すると、第三行動隊約二〇〇名は、責任者の指示により、第一ホームから「玄海」号の進路に当たる一番線の博多駅方向へ移動し、機留線から移動してきた第二行動隊約二〇〇名とも合流して、午後八時二三分ころ、前記と同様軌条の両外側枕木の付近にスクラムを組んで向い合つて立ち並んだ。その後、被告人中江の要請により、被告人馬場が「玄海の発車を止めろ」と叫んで指示したので、第四行動隊約一〇〇名が第二ホームからかけつけ、右第二、第三行動隊に合流し更に博多駅寄りに、同様軌条両外側の枕木付近にスクラムを組んで向い合つて立ち並んだ。そしてこれらのピケ隊員は、ワッショイ、ワッショイとかけ声をあげたり、労働歌を唱和し、時には大波が打つた様に身体を前方に傾けた。かくて、これらのピケ隊員は、車両接触限界内に立ち並び、そのため「玄海」号の発車は、客観的にも危険で不可能な状態であつた。これに対し、当局側は、携帯拡声機により再三ピケの撤去要求と実力排除を警告したが、ピケ隊はこれに応じなかつたので、曾根対策本部長は、中村公安室長に実力排除を命じ、同公安室長の指示により公安職員は、午後八時二五分ごろ実力排除を開始した。この排除には警察官も加わつた。その排除の方法は、前記「平戸」号着機や機留線における「玄海」号発機の場合と同様であつた。

これに対し、被告人中江は「突込め、押しつぶせ、お前達田舎の警官は早く帰れ。俺は東京の警視庁の機動隊を相手にした中江だ。」などと叫んでピケ隊員を指揮激励したので、ピケ隊員は、これに従い、排除に当つた公安職員や警察官らを押し返すなどして抵抗した。しかし順次排除がなされたので、午後八時二八分ごろ「玄海」号は、発車合図に従い警笛を二、三回鳴らした後、公安職員らの逆ピケの中を最徐行で発車し数十米進行した。ところが、排除されたピケ隊員らが、さらに博多駅寄りに移動して公安職員の逆ピケのない地点に再び前同様にスクラムを組んだため、「玄海」号は停車した。公安職員らは、再びこれを前同様実力排除したので、「玄海」号は約三、四分停車した後、午後八時三二分頃再び再徐行で発車し、次第に速度をあげて鳥栖駅構内を出て行つた。

その結果「玄海」号は、同駅では、約三二分増延し、定刻より約六二分発車が遅れた。

以上の事実が認められる。原判決中右認定に反する認定は誤りである。

以上認定のような、本件起訴の対象となつた。被告人中江、同馬場ら動労組合員数百名の多数が一番線の「玄海」号の進路前方軌条両外側の枕木付近(いわゆる車両接触限界内)に線路に沿つてスクラムを組んで立ち並んだ本件ピケ行為は、原判決がいうように、被告人中江ら組合役員が、杉本機関士を職場集会に参加するよう説得し、他の組合員らがこれを激励するというに止まるものではなく、それは客観的に見ても「玄海」号の発車を妨害するものであつて、代替乗務員である杉本機関士に説得を拒否する自由を与えず、その受忍を余儀なくさせるものであつて、いわゆる平和的説得のための相当性の範囲を超えており、多数の威力を示して実力により「玄海」号の発車を妨害したものに外ならず、刑法二三四条の威力業務妨害罪の客観的構成要件に該当することが明らかである。このことは、たとえ、それが、原判決のいうように、杉本機関士に対する説得活動を国鉄当局側により妨害されたことに抗議し、あわせて、さらに右説得活動を要求する目的に出でたものであるとしても何ら異なるところはない。原判決が、被告人両名の右所為は、威力を用いて国鉄の列車運行業務を妨害したものであり、刑法二三四条の構成要件に該当することが明らかであると判示したのは、その限りにおいては正当である。

しかるに、原判決は、「杉本機関士が鉄道公安職員らに擁護されながら機留線に留置されていた「玄海」号発機に乗り込んでから、右発機が客車に連結され発車するに至るまで、終始鉄道公安職員や警察官らが、被告人中江ら動労役員が同機関士に対して説得活動を行うことを、実力を用いて先制的に妨害阻止しており、国鉄当局側が右説得の機会を実力を用いて奪つたことは不当である。現に、「玄海」号着機の長尾機関士ら三名の乗務員は、被告人中江の説得に従い右着機から降り、「平戸」号着機の丸田機関士および五四六列車の山口機関士は、いずれも被告人馬場の説得を入れ、下車こそしなかつたが、できる限り指令の趣旨に従つて行動しているのであり、杉本機関士自身動労組合員としての立場上組合側からの説得の機会があれば、できる限り協力する気持はあつたので、その説得には耳を傾ける気持はあつたと認められることなどにかんがみると、同機関士が被告人中江ら動労組合員の説得に応ずることは充分期待されたはずである。」「また、被告人中江の説得に従つて下車し、第一ホームの第三行動隊の組合員らに合流した「玄海」号着機の長尾機関士ら乗務員を、鉄道公安職員らの実力行使により奪還し、あるいは「平戸」号着機西側面で、丸田機関士を激励し正当な団体行動を行つていた第四行動隊の組合員らを、やはり鉄道公安職員らの実力行使によつて排除するなど、国鉄当局側は積極的に実力を用いて同盟罷業の効果の減殺をはかつた。」「右のような状況の下では、被告人中江、同馬場ら動労組合員が、「玄海」号進路前方での本件ピケ行為に出ることは、同盟罷業の実効性を消極的、受働的に防衛するためやむを得ないものであつた。」旨判示している。

しかしながら、公共の福祉の維持、増進のため列車の正常かつ安全な運行に責任を有する国鉄当局は、組合の争議中であつてもなお業務遂行の自由を有し、まして組合側の説得行為に協力し、これを拱手傍観すべき義務を負うものでないことは明らかであり、代替乗務員を確保し業務を遂行することは、正常であり、その正当性は、国鉄の鉄道業務の公共性にかんがみれば特に強調されなければならない。そして、鉄道公安職員が鉄道営業法四二条一項にいう鉄道係員として、同項三号三七条の「公衆が鉄道地内にみだりに立ち入つたとき」には、すみやかに国鉄の業務運営上の障害を除去するために、公衆を鉄道地外に退去させることができ、その際には、その具体的事情に応じて必要最少限度の強制力を用いることができること、また、鉄道公安職員の右の職務が公務執行妨害罪の客体たる公務にあたることは、既に昭和四三年(あ)第八三七号、同四八年四月二五日最高裁判所大法廷判決の判示するところである。さらに、本件のように、勤務から離れた動労組合員数百名が、列車の着機、発機の発進を妨害する状態で鉄道地内に立ち入つた場合は、鉄道営業法三七条、四二条一項三号にいう「公衆がみだりに鉄道地内に立ち入つた」場合にあたるということを妨げないことも、右大法廷判決の趣旨に徴し明らかである。してみれば、国鉄当局が、本件ストに備えて代替乗務員を確保し、その一人である指導機関士の杉本機関士に対し「玄海」号の運転を命じたのは正当であるし、また、同機関士が動労組合員ではあるが、右業務命令に従い就業することの正当なことも、既に前述したところである。そして、前記(3)ないし(9)で認定したような、被告人ら動労組合員の鉄道地内である鳥栖駅構内における行動に対処するため、国鉄当局が、鉄道公安職員をして杉本機関士をピケ隊員によつて連れ去られないように擁護して機留線の「玄海」号発機に乗車させ、その周辺の警備に当らせたこと、さらに、前記認定のように、「平戸」号着機周辺およびその進路前方のピケ隊員に対する実力排除、機留線から「玄海」号発機を引上げるための実力排除、「玄海」号着機の長尾機関士らの取り戻しのための実力排除、一番線の「玄海」号発車のための実力排除をさせたことは、いずれも列車の運行業務を維持継続するための臨機の措置としていささかも不当違法のかどはないというべきである。蓋し、右実力排除と雖も、前認定のような、その実力行使の程度、態様に照らせば、本件の具体的事情の下においては、必要最少限度の強制力の範囲内に属するものと認むべきであるからである。しかるに、原判決が、これらを目して、国鉄当局側は、杉本機関士が機留線の「玄海」号発機に乗車してから、客車に連結されて一番線を発車するまでの間、同機関士に対する説得を実力を用いて先制的に妨害阻止した不当があるとか、また、「玄海」号着機の長尾機関士らを実力行使により奪還したり、「平戸」号着機西側面での丸田機関士に対する激励を実力行使により排除したのは、積極的に実力を用いて同盟罷業の効果の減殺を計つたものであると非難したのは、失当であるといわねばならない。前認定のような状況の下で「玄海」号着機の長尾機関士らが被告人中江の説得に従い、右着機から降りたことや、「平戸」号の着機の丸田機関士および五四六列車の山口機関士が、被告人馬場の説得を受け入れ、下車こそしなかつたが、できる限り指令の趣旨に従つて行動したことは、当裁判所の右判断を何ら左右するに足るものではない。また、なるほど原審第一四回公判調書中の証人杉本幸広の供述記載によれば、同証人は、自分自身動労組合員としての立場上、組合側から説得の機会があれば、その説得に耳をかたむける気持はあつたと供述しているけれども、しかし右供述部分に続いて、自分は、門司機関区所属の指導機関士であるが、本件当日動労のストが鳥栖駅で行われるので、列車の運行を最少限度確保するための代替要員として、業務命令で門司から出張してきたものであり、組合の指揮に従うことは必要であるが、しかし国鉄職員として業務命令が優先するのでこれに従つた、自分の前の列車(平戸号のこと)が何事もなく発車したので自分の場合もそうあつてほしいと思つていた旨供述しているし、原審第一二回公判調書中の同証人の供述記載によつて認められる同証人の客観的行動、すなわち、同証人が機留線の「玄海」号発機に乗車してから、当局の指示に従つて発機の窓をしめたままでなるべく外を見ないようにしていたこと、準備点検を了した後、前認定のように発機進路前方のピケ隊員が実力排除されるや直ちに機留線から引上げていること、「玄海」号着機が客車から離されて機関区に入区するや、係員の合図に従つて一番線の客車に連結し、発車合図に従つて警笛を二、三回鳴らし、一旦発車させたが数十米進行して一たん停車した後再び発車した事実等に照らしてみても、杉本機関士が被告人中江ら動労組合員の説得に応ずることは充分期待されたはずであるとした原判決の判断は、誤りであるといわざるを得ない。

ちなみに、被告人中江らが、「玄海」号発機の機留線において、当局側に要求した、発機の乗務員が正規の乗務員であるか否かということや、出区点検をしたか否か(この出区点検は、当時の状況では機関士がするのは困難なため門司機関区の助役がしている。原審第一四回公判調書中の証人曾根茂の供述記載参照)ということは、当局側で確認すべき事項であつて、警察官を労働争議に介入させるな、との要求と共に組合側の説得行為の埓外の事柄であることを付言する。

これを要するに、原判決が、被告人ら動労組合員が、本件ピケ行為に出ることは、同盟罷業の実効性を消極的、受動的に防衛するためやむを得ないものであつたと判断したのは、失当といわざるを得ない。

さらに、原判決は、被告人中江、同馬場らの本件ピケ行為の違法性阻却の事由として、本件ピケ行為により「玄海」号の発車をせいぜい一〇分位阻止したに過ぎないこと、組合員らは鉄道公安職員らの実力排除に対し消極的抵抗をしたに止まり、殴る突くなどの積極的反撃に出でた証拠はないこと、また、組合員らが右ピケ行為以上に、運転係の「玄海」号の発車の手続を妨害したり、運転器の損壊など同列車の運転機能自体を阻害するような物理的力を行使したり、信号機の操作を不能にしたりなど、同列車の発進を最終的決定的に不能にする行為に出た証拠のないことを指摘しているけれども、本件ピケ行為が、既にいわゆる平和的説得のための相当性の程度を超えており違法であること前段説明のとおりである以上、右の諸事情は、何ら本件ピケ行為の違法性を阻却すべき事由に当たるとはいえない。

なお、原判決は、同様違法性阻却の事由として、本件職場集会に基因すると思われる実害の程度は、さほど大きなものとはいえないともいうが、「玄海」号は、約三二分増延し定刻より約六二分遅れて発車していることは、前認定のとおりであり、また、原判決のいうとおり、「玄海」号に続いて定刻午後八時発の急行「天草」号が約六四、五分増延し、四四列車(小荷物列車)が約一一〇分、貨物列車が最高一九〇分それぞれ遅れたほか、貨物列車一台が運休したのであり、さらに「玄海」号は京都までの長距離列車であり、その接続列車等に与えた影響等をも併せ考えれば、本件職場集会に付随して行われた本件ピケ行為による影響、実害は、かなりのものがあつたと認められ、原判決の右判断は誤りというの外はない。

以上の次第で、原判決が、被告人中江、同馬場両名が動労組合員数百名とともに「玄海」号進路前方の車両接触限界内に立ちふさがつて同列車の発進を妨害した行為は、威力を用いて国鉄の列車運行業務を妨害したものであつて、刑法二三四条の構成要件に該当することは明らかであるとしながらも、憲法の争議権保障の趣旨に照らして労働組合活動に当然に包含されるものと解すべきであつて、刑法二三四条の威力業務妨害罪の刑事罰を以つて臨むべき違法性を欠くとして、右被告人両名に対し無罪を言い渡したのは、本件ピケの違法性に関する諸事情を誤認し、ひいて、刑法二三四条、労働組合法一条二項、刑法三五条の解釈適用を誤つたものというの外はなく、これらが原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、その余の趣旨について判断するまでもなく、右被告人両名に関する部分は破棄を免れない。論旨は、理由がある。

よつて、刑訴法三九七条一項、三八〇条、三八二条に則り、原判決中被告人中江、同馬場に関する部分を破棄すべきである。

第二節<中略>

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、公労法一七条一項が憲法二八条に違反するから本件時限ストひいてこれに付随してなされた本件ピケッティングは違法ではなく、また、鉄道公安職員は、鉄道営業法四二条にいう「鉄道係員」に該当しないし、本件被告人ら動労組合員は、同条にいう「公衆」にも当らないし、さらに、同条は、強制にわたる実力行使を鉄道係員に許容していないから、本件における鉄道公安職員らの実力排除は、その職務権限に属せず、従つて公務執行妨害罪にいう「公務」に当らないと主張するけれども、そのいずれも理由のないことは、前記第一節、第二節において述べたりである。

よつて、主文のとおり判決する。

(足立勝義 松本敏男 吉田修)

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